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>HOME >新聞の片隅に >「ミサイルの現場」(2022/11/21)

VOL8:ミサイルの現場

 「北緯40度11分、東経147度50分。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)から発射されたミサイルが日本の頭上を越えて着弾したと思われる地点は、雲でかすんだ水平線しか見えない太平洋のまっただ中だった」

 1998年9月1日の夕刊に載った拙稿である。

 前日の8月31日、朝日新聞東京本社の編集局は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。

 午後5時ごろ、「テポドンが日本列島を飛び越えて太平洋に落下した」との情報がソウル特派員から伝えられた。ところが、防衛庁(当時)は「そんな情報は聞いていない」。激しいやりとりの末、ようやく韓国情報を認めたのは午後10時を過ぎていた。

 社会部記者だった私はただフロアを右往左往するしかなかった。

 「やまざきっ」

 降版後、デスクに呼び止められた。

 「アサイチで現場に行ってくれるか」

 現場?翌9月1日早朝、徹夜の私が向かったのは羽田空港の格納庫。待機していた社機の小型ジェットにカメラマンとともに乗り込んだ。

 離陸から1時間15分。着弾したと推定される三陸沖の上空に着いた。前日からの騒動がうそのような静かな青い海が広がっていた。

 あの日から24年。北朝鮮のミサイルが日本を飛び越えたのは7回目になる。当時はなかったJアラートが流れ、スマホの画面には「地下に避難してください」の文字が表示された。ただ、どうすることもできない無力感は24年前と同じだった。

朝日新聞 北海道支社長 山崎靖

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