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>HOME >新聞の片隅に >「藻岩山のクマ」(2023/10/16)

VOL19:藻岩山のクマ

※写真は記事内容とは直接関連していません

 ヒグマの足跡を初めて見た。

 札幌に赴任中の昨年3月、雪が残る藻岩山の登山道を歩いていると、数人が集まって同じ方向を覗き込んでいる。視線の先には、5本の爪跡と逆三角形の足裏の型がはっきりと雪原に刻まれていた。その軌跡は、多くの登山客が行き交う道を堂々と横切っている。

 ヒグマが身近な存在であることを実感した瞬間だった。東京本社版でも大きく取り上げられていた「OSO(オソ)18」の記事を読みながら、そのときの、ぞくっとした感覚を思い出した。

「不思議なんですが、クマが憎いと思ったことは一度もないんです」

 こう話すのは、27年前、ロシアでの取材中にクマに襲われて急逝した写真家、星野道夫さんの妻、直子さんだ。インタビュー記事が1年前の道内版にある。

 「最初はどうしてこんなことが起きたんだろうと、現実を受け入れられなかった。だんだん事故の状況がわかり、クマが好きでやったことではなく、人が作ってしまった環境のせいで起きたことなのだと知りました」「クマたちの生活は自然の中にある。お互いに距離を持って接しなければいけないのでは。クマの撮影時、道夫さんは急にばったり会わないように見通しの悪いところでは、ここに自分がいる、と大声で知らせながら歩いていました。クマだって人と出会いたくないのです」

 ああ、人間臭い場所に来てしまった。急いで離れなくちゃ。
 足跡を残して走り去る藻岩山のクマの声が聞こえてきた。

朝日新聞 前北海道支社長 山崎靖

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藻岩山のクマ

ヒグマの足跡を初めて見た。札幌に赴任中の昨年3月、雪が残る藻岩山の登山道を歩いていると、数人が集まって同じ方向を覗き込んでいる。読む

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