北海道百年記念塔の解体がこの秋にも始まると報じられている。
1968年、開道100年を記念して札幌市厚別区の野幌森林公園に着工され、2年後に完成した。高さは100メートル。老朽化や維持費の問題で4年前には解体が決まっていたが、地元住民からは存続を望む声が出ているという。
元朝日新聞編集委員で札幌を拠点に執筆活動をしていた作家の外岡秀俊さんは、百年記念塔ができた100年記念事業について、記事の中でこう解説している。
「開拓100年を祝うという考え方が強く、先住民族であるアイヌの歴史を無視しているといった批判も高まり論争が起きた。そこから民衆史発掘の運動が生まれた。タコ部屋労働やアイヌ民族の問題などが掘り起こされ、私たちには、開拓だけではない幾層もの歴史があることが明らかになった」
この記事を読んで、白老町の国立民族共生象徴空間(愛称・ウポポイ)を初めて訪れたときのことを思い出した。再現されたアイヌの伝統的なチセ(家屋)の中で、ムックリ(口琴)を披露していた民族衣装姿の女性が、演奏が終わるとぽつりぽつりと話し始めた。
ウポポイができる前、ここはポロトコタンと呼ばれていた。ポロト湖のほとりの小さな集落で、アイヌの仲間たちが自ら文化や伝統を守り、伝える場だった。今はきれいな施設に生まれ変わって感謝しているけれど、ポロトコタンのことも忘れないで欲しい――
アクリル板越しに語った女性の表情を、いまでもはっきりと覚えている。
外岡さんの言う「幾層もの歴史」とは、そういうことなのかも知れない。目に映る表層の下には幾つもの歴史が折り重なっている。決して忘れてはいけない歴史である。
そう思うと、百年記念塔の奇妙な形もどこかいとおしく感じられた。
朝日新聞 北海道支社長 山崎靖