賢治は北海道人に近しい。3度の来道、作品との関係、その精神を汲んだ活動(例えば北海道農民管弦楽団)など。本書は北海道文学館理事である著者の手になる初の作品論だ。この不動の人気作品の12の謎を挙げ、先行研究も参照しながら作品や関連資料を検証し、明確な自論を展開する。乗客と「犠牲死」との関係をキリスト像に重ね合わせ、鉄道の位置関係を銀河が降りてきた地上とする。著者による更なる研究の深化を期待したいと思う。
著者 三浦幸司 出版社 寿郎社 発行 2022年3月15日 価格 1980円(税込)
公務員として働きながら在野の怪異妖怪研究家・作家として活躍する著者。現在も各地域編の刊行が続くシリーズ全8巻の第1弾が本書である。特筆すべきはその博覧強記ぶり。北海道の文化や歴史からあまり縁の浅いと思われる「怪異」「妖怪」について、アイヌ民族の伝承から、江戸期以前に和人が残したもの、開拓期から現代に至る様々な記録を渉猟、発掘し、出典を明示し、エリア別に800以上を掲載している。読んで楽しく、役立つ事典である。
著者 朝里樹 出版社 笠間書院 発行 2021年6月25日 価格 2200円(税込)