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>HOME >朝カフェ 北海道の小さなお話 >「ヒグマにだって「ワケ」」(2023/6/19)

VOL15:ヒグマにだって「ワケ」

 ヒグマの目撃情報が相次ぐこの時期、決まって思い出すのが、5年前、本島から20キロ以上を泳ぎ利尻島に渡ったあの若い雄のヒグマのことだ。当時は利尻島を担当する稚内支局長だった。

 上陸が確認されたのが5月末。釣り人が海岸で足跡をみつけて騒ぎになった。島にヒグマは生息していない。1912(明治45)年のやはり5月、島民がヒグマを見つけ、捕獲した記録があるだけだ。体重300キロを超す雄の成獣を前に誇らしげな当時の島民の写真が残っている。

 なぜこの時期、しかも雄……。春から初夏はヒグマの繁殖期。専門家は「好奇心の強い雄が新たな恋を求め、利尻島に渡ったのだろう」と言った。言うのは簡単だ。ヒグマが泳げることは知っているが、フェリーに乗るたびに潮の流れに逆らいながら懸命に泳ぐ姿が脳裏に浮かぶ。まさに「男のロマン」だ。

 島の周囲は約60キロ。この広さなら数日で島に自分しかいないことに気づくという。雌がいなければ島にいる理由はない。また泳いで本島に戻ったと思われ、実際に7月中旬以降、新たな撮影や痕跡は確認できなかった。だが、いないことの証明は容易ではない。箱わなやハチ蜜による誘導作戦も試し、結局、終息宣言は翌年だった。

 そんな中で、忘れられないのが8月4日に来島した当時の天皇、皇后両陛下の沿道警備だ。沿道に集まる島民の背後の草地に私服警官が立ち並び、両陛下の車が近づくと一斉に腰を振ってクマよけの鈴を鳴らした。もしヒグマが寄ってきたら押さえつけることも拳銃で撃つこともできないわけで、不謹慎ながらあの滑稽な「腰ふりダンス」に警察官の祈りすら感じた。

 市街地への出没が相次ぎ、朱鞠内湖では釣り人が襲われた。ヒグマにも個性があり、どのヒグマも人を襲うわけではないだろう。いずれにしてもヒグマに非はない。そうなる「ワケ」が問題なのだ。

朝日新聞旭川支局長 奈良山 雅俊

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