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>HOME >朝カフェ 北海道の小さなお話 >「「奇人」の街はいま」(2023/2/20)

VOL11:「奇人」の街はいま

江差町内のあちこちに繁次郎の姿が
江差町内のあちこちに繁次郎の姿が

 同郷の歌人石川啄木ゆかりの函館に赴任して、真っ先に行ってみたかった場所がある。立待岬にある一家の墓でも、代用教員を務めた小学校でもない。「乞食(こじき)」の供養塔だ。

 むやむやと
 口の中にてたふとげの事を呟く
 乞食もありき

 啄木が詠んだその乞食こと、万平さんを供養する万平塚が、函館湾を望む地蔵寺にある。万平さんは「物乞い」とは違ったらしい。家々のごみをあさってはその家の暮らしぶりを観察し、人物評などを日記に残した。大阪から訪れたある鉄工場主が万平さんにたばこの火を借りた際、「帽子も取らず、失敬じゃないか」と怒られた。その気位に感服した工場主が供養塔を建てたと伝わる。

 かつて道南では、万平さんのほかにも多彩な自由人(奇人変人)がいた。「函館・道南大事典」には「奇人」の項目があるほどだ。衣服から足袋まで赤ずくめの姿で新聞の号外をまいて歩いた「赤服」、怪力自慢の「南瓜親爺(かぼちゃおやじ)」、博識で知られた「チョイナ先生」、盲目の親孝行者「木古内の坊」……。

 偉そうな権力者を得意のとんちでやり込めた江差町の「繁次郎」なんかは、今でも町のあちこちで名前が使われ、町民にいかに愛されているかがわかる。

 函館は1854(安政元)年の日米和親条約でいち早く開港した。多くの外国船がやって来て、異文化が交じり合う。自由な気風の中、いろんな奇人たちが躍動していた風景を思い浮かべてみるのは、実に楽しい。

 翻って、奇人たちが遠景に退いた函館はすっかり活気を失った。毎年3千人も人口が減り続けている。閉塞感が漂い、とりわけ若者たちには諦め気分さえにじむ。4月の統一地方選では函館市長選も行われる。「異次元の対策」は無理としても、どのような蘇生策が示されるのか、注視していきたい。

朝日新聞函館支局長 阿部浩明

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