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監督:木下恵介
ロケ地:石狩、小樽
千葉・犬吠埼(いぬぼうさき)灯台など国内4カ所の灯台が国の重要文化財に指定されるという。そのニュースを知った時、私の胸に浮かんだのはあの歌。佐田啓二と高峰秀子が灯台守夫婦を演じた映画「喜びも悲しみも幾歳月」の主題歌である。
物語は、東京湾の観音崎灯台を目指し、いそいそと歩く新婚の四郎(佐田)ときよ子(高峰)の後ろ姿から始まる。先輩職員に顔見せするのを恥ずかしがる高峰が若々しい。
翌年、夫婦の転任先となったのが、全国でも珍しい、砂浜に建つ北海道・石狩灯台だ。家屋が雪にすっぽり覆われてしまう冬の情景は、道産子の私には馴染み深いけれど、2人にとっては最初の試練となった。慣れない土地、しかも辺ぴな場所で4年間を過ごし、長男と長女に恵まれる。家族とともに慎ましく暮らし、地道に働くこと。言葉にすれば単純な生き方をまっとうする難しさと尊さが、40年近く生きてきた今の私にはよく分かる。と同時に、人はどうしたって死の別れと無縁でいられないことも。家族が増え、喜ぶ夫婦の傍らで、妻を病気で亡くす同僚の姿をカメラはじっと見つめる。
幸運にも平穏な日々が続いたとして、時代の波に飲み込まれれば、そんな日常はいともたやすく崩れてしまうことも、映画は静かに描いていく。北海道の片隅から夫婦が海の安全を見守っている間に、日本は国際連盟を脱退。二・二六事件などを経て、第二次世界大戦へと歩み始めるのだ。
もとは白一色だった石狩灯台が、撮影隊の要請で赤とのツートンカラーに塗り替えられたのは有名な話。模様替えの許可には手間が掛かったそうだが、その甲斐あって“総天然色”カラー映画の美しさは今も健在で、ロケ地は大切に活用されている。映画も長く愛され、この秋には「北海道ロケ特集」として札幌・シアターキノが上映。「何十年ぶりに観て嬉しかった」という年配の女性客が多かったそうだ。
夫婦が船上から手を振るイラストは、石狩灯台を去る場面から。溌剌とした2人がその後どんな軌跡をたどるかは、ぜひ映画を観てほしい。長崎・女島(めしま)灯台、新潟・弾崎(はじきざき)灯台、静岡・御前埼(おまえさき)灯台など日本各地を転々とすること25年。最後の赴任地として向かうのが、小樽の日和山灯台だ。
映画の冒頭と同じように坂を上る夫婦。眼前に、霧に包まれた灯台が現れる。この瞬間をカメラに収めるべく、早朝から準備して待ったことを、木下恵介監督が後年回想している。6年前、私はこの日和山灯台を訪れたが、思った以上に険しい場所にあり、灯台守の孤独とロケの苦労がしのばれた。
それにしてもなぜ、再び北海道の灯台を重要なラストシーンに登場させたのだろう。年老いた夫婦に冬の寒さはこたえるはず。せめて暖かい土地に送ってあげたかったけれど、あえてここを選んだとすれば、厳しい環境でも生き抜ける強さを2人に託したのではないだろうか。せわしくもにぎやかだった石狩時代の思い出も、夫婦の心をきっと温めてくれたはずだ。
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太古に生きた恐竜の化石が数多く発掘され、注目を集める北海道。映画に関して言えば、空想上の巨大生物“怪獣”が何度か上陸し、スクリーンの中の道民をパニックに陥れている。読む
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伝説の映画に期待し過ぎて、肩透かしを食うことがある。高倉健さんファンには申し訳ないけれど、彼が主演した「君よ憤怒の河を渉れ」もそのひとつ読む
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本物の探偵には会ったことがないけれど、映画に出てくる探偵は格好いい。といっても私が好きなのは、どこかおどけて三枚目、でも、ここぞという時には強くて優しい、哀愁漂う探偵だ。読む
「コタン」とは「集落」を意味するアイヌ語で、最近では朝の連続テレビ小説「なつぞら」主題歌の歌詞に登場して新鮮な思いがした。読む
美人に弱い恐妻家の社長(森繁久彌)、気配り上手な常務(加東大介)、真面目一辺倒の技術部長(小林桂樹)、なまりが強烈な豪快社員(フランキー堺)。読む
ミステリーに疎い私でも、タイトルだけは知っていた「点と線」。原作は、作家・松本清張が初めて手掛けた長編推理小説で、雑誌の連載が終了したその年のうちに映画化して話題を集めたのが本作だ。読む
“マイトガイのアキラ”と聞けば、この作品を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。日活黄金期の看板スター・小林旭の代表作であり、一世を風靡した「渡り鳥」シリーズの第1作。読む
北海道の農業高校を舞台にした同名人気マンガの実写映画化。青春学園ものとはいえ、内容はよくある恋愛系でも、スポーツ系でもない。読む
30本以上の北海道ロケ映画に出演した高倉健。男気あるやくざや、実直な仕事人など、北の果てに生きる一本気な男を魅力的に体現した彼のイメージを一言でいうなら“寡黙で不器用”。読む
「テキヤ殺すにゃ刃物は要らぬ。雨の3日も降りゃあいい」。映画「男はつらいよ」の主人公・車寅次郎(渥美清)は、ご存じ啖呵売の露天商。読む