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監督:坪川拓史
ロケ地:室蘭
「モルエラニ」とは「小さな下り坂」という意味のアイヌ語で、「室蘭」の語源のひとつ。まるで優しい呪文のような響きを秘める「モルエラニの霧の中」は、西胆振地方を舞台にしたオムニバス映画。東京から生まれ故郷・室蘭に拠点を移した坪川拓史監督が、一人で脚本・監督を務め、地元市民の協力を得て、足掛け5年の歳月を掛けて完成させた労作だ。
物語は、冬季休館中の水族館の職員と少年の交流を見つめる「冬の章 青いロウソクと人魚」に始まり、老舗写真館での不思議な出会いと記憶を綴る「春の章 名残の花」、妻を介護する男性が彼女の歌を教え子に託す「夏の章 しずかな空」など、7編のショートストーリーが四季の移ろいとともに展開。イタンキ浜や青少年科学館など、各章に登場する場所や人物は少しずつ重なり合い、全体を通してみると、街の佇まいや人の生きざまがパズルのピースが埋まるように浮かび上がってくる。しかも出演は(前回本コラムで取り上げた映画「森と湖のまつり」にも出演した)大女優・香川京子さんをはじめ、2018年に急逝した名優・大杉漣さん、小松政夫さん、大塚寧々さん、札幌出身の新人女優・久保田紗友さんらプロと、延べ200人の市民キャストが共演。有志で作るNPO法人「室蘭映画製作応援団」が資金集めからロケ支援までを担ったご当地自主映画とは思えない、豪華で贅沢な作品なのだ。
…と聞くと、一度は観てみたくなるだろう。けれど残念ながら、本作は道内の劇場では未公開(3月末時点)。そんな中、東京の名物ミニシアター・岩波ホールがラインナップに選び、2021年2月6日から5週間の公開が予定されているのもスゴイ。 全部で約210分(!)、商業映画とは一線を画した本作が誕生した背景には、室蘭に移り住んだ坪川監督ならではの熱い思いがある。海や浜、ビオトープなど独特の自然景観が残る一方、威容を誇る工場群や趣のある古い建物が点在する室蘭。そこで暮らす人たちと出会い、さまざまな話を聞くうち、「この街で映画を撮りたい」という気持ちがむくむく沸き起こり、誰に頼まれるでもなくシナリオを書き始めたのが始まりだという。そんな坪川監督のひたむきさが、多くの人を動かし、本作に結実したのだ。
実は私も「応援団」に協賛し、完成を心待ちにしていた一人。昨年3月、熱気に包まれた札幌の試写会会場で初めて観た時は、カラーとモノクロが入り組んだ幻想的な映像美を堪能。劇中に流れるどこか懐かしいメロディーは、今でもふと口ずさんでしまうほど私の心に沁み込んだ。
イラストは、「春の章」のワンシーン。香川さん演じる老婦人が見上げる大樹は、室蘭の崎守町にある樹齢100年以上の一本桜である。見事な咲きっぷりだが、実はロケの前に散ってしまい、1年越しで撮影したそう。今頃、あの桜は再びつぼみをほころばせているだろうか。何度季節が巡っても、やっぱり桜は美しい。けれどこの映画に刻まれた美しさは、別格かもしれない。
イラスト&文 新目七恵(あらため・ななえ)
ライター、ZINE「映画と握手」発行人。アカデミー賞撮影賞などに輝いた「1917 命をかけた伝令」(サム・メンデス監督)もチェリーブロッサム(桜)が映る2つのシーンが印象的でした。ちなみに、主演のジョージ・マッケイの出演作「サンシャイン/歌声が響く街」「パレードへようこそ」「はじまりへの旅」もおススメです!
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美人に弱い恐妻家の社長(森繁久彌)、気配り上手な常務(加東大介)、真面目一辺倒の技術部長(小林桂樹)、なまりが強烈な豪快社員(フランキー堺)。読む
ミステリーに疎い私でも、タイトルだけは知っていた「点と線」。原作は、作家・松本清張が初めて手掛けた長編推理小説で、雑誌の連載が終了したその年のうちに映画化して話題を集めたのが本作だ。読む
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北海道の農業高校を舞台にした同名人気マンガの実写映画化。青春学園ものとはいえ、内容はよくある恋愛系でも、スポーツ系でもない。読む
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