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監督:内田吐夢
ロケ地:標茶
実在した樺太(サハリン)アイヌを主人公にした歴史小説『熱源』が直木賞に選ばれた。『熱源』に出てくる明治初期から70年ほど後の1950年代半ば、北海道・道東に住むアイヌ民族をテーマとした武田泰淳の長編小説を映画化したのが、「森と湖のまつり」だ。
民族の誇りを守ろうと生きる青年・風森一太郎(高倉健)と、和人の画家・雪子(香川京子)の出会いを描く文芸大作。ラブロマンスの香りをまとっているが、2人以外の登場人物も多彩で、アイヌ研究者・池博士(北沢彪)、池博士の元妻で酒場を営むアイヌ女性の鶴子(有馬稲子)、風森の姉でクリスチャンのミツ(藤里まゆみ)、ミツの元恋人・杉田(加藤嘉)、風森を憎むアイヌの旅館主人(花沢徳衛)らそれぞれの思いが複雑に絡み合い、アイヌ問題に迫る社会派ドラマでもある。
札幌の自主上映会で初めて観た5年前、私はスクリーンに映し出されるアイヌ風俗の数々に目を奪われた。「イオマンテ」(クマの霊送り)に始まり、クライマックスには塘路(とうろ)地方で秋に行われていた「ベカンベ祭り」(ひしの実収穫祭)が登場。ロケは標茶の原野に作ったアイヌコタンのオープンセットなどで2カ月近く行われ、道内各地の長老らアイヌ民族も応援に駆け付けたそうだが、この「ベカンベ祭り」の「鶴の舞」ではエキストラ出演のため集まった人々の踊りが地域によって違うため、塘路に伝わる踊り方に統一したという裏話も残っている。
原作は、アイヌの伝統祭事が観光化する一面を鋭くあぶり出していたが、映画ではそうした描写は控えめで、後半クローズアップされるのは網元・大岩の息子(三國連太郎)の存在だ。自分にアイヌの血が流れていると知りショックを受ける三國と、アイヌの純血性にこだわる高倉。対照的な2人の争いは、血で血を洗う結末を迎える。
ちなみに、主人公・風森のモデルの一人は、彫刻家の砂澤ビッキだとか!映画の公開時は20代だったビッキのその後を道内各地の木彫作品や関連書籍でたどると、本作と一人のアーティストとの不思議な関わりに思いを馳せることができる。
「私は、アイヌを評していう〝滅びゆく民族〟という言い方は好きじゃない」と内田吐夢監督が語っていた通り、当時激しい差別と偏見の対象だったアイヌ民族に、本作はできるだけ心を寄せそうとした。それは、本作の翌年に公開されたアイヌ姉弟の悲哀を描く映画「コタンの口笛」(1959年、成瀬巳喜男監督)にも共通しており、半世紀以上経った今を生きる私の胸を揺さぶる。
そうした中、冒頭に挙げた文学や漫画、演劇や音楽、クラフト工芸、食など幅広い分野でアイヌ文化の価値を再発見する動きが生まれている。純粋に面白かったり、美しかったり、感動的なそれらに触れながら、私は大好きな映画界にもその波が訪れることをひそかに願っている。
イラスト&文新目七恵(あらため・ななえ)
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美人に弱い恐妻家の社長(森繁久彌)、気配り上手な常務(加東大介)、真面目一辺倒の技術部長(小林桂樹)、なまりが強烈な豪快社員(フランキー堺)。読む
ミステリーに疎い私でも、タイトルだけは知っていた「点と線」。原作は、作家・松本清張が初めて手掛けた長編推理小説で、雑誌の連載が終了したその年のうちに映画化して話題を集めたのが本作だ。読む
“マイトガイのアキラ”と聞けば、この作品を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。日活黄金期の看板スター・小林旭の代表作であり、一世を風靡した「渡り鳥」シリーズの第1作。読む
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