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監督:降旗康男
ロケ地:函館、札幌
手前みそで恐縮だが、AFC「映画と握手」上映会第3弾(6月、札幌・共済ホール)で観た「幸福の黄色いハンカチ」(1977年、山田洋次監督)は、実に面白かった。巧みな脚本、懐かしい風景、そして豪華な出演者! 観客の皆さんのリアクションも良く、武田鉄矢さん演じる若者の身勝手な言動に笑い、高倉健さん演じる主人公の複雑な事情が分かるにつれ静まり返る場内にいると、私もすっかり引き込まれ、ラストシーンは胸いっぱい。テレビやパソコンで一人見るのとは全く違う、幸せな映画体験だった。
同じ高倉健さん主演作「居酒屋兆治」も、私にとって特別な1本だ。なぜなら、偶然にもロケ地となった函館と札幌に住み、それぞれの土地で、この映画に関わった人たちと出会ったからである。
物語は、函館の町外れで夫婦(高倉健、加藤登紀子)が営む小さなモツ焼き屋が舞台。夫婦が買い出しをする老舗商店街「中島廉売」を私が訪ねたのは2008年のこと。健さんに商品を手渡した漬物店の奥さんは、撮影から25年経っても「あの健さんが目の前にいるんだもの! 緊張してガチガチになっちゃった」と頬を染め、旦那さんは「俺は平気だったよ」と笑っていた。
店に集う常連客の掛け合いも見どころで、中でも主人公・英治(高倉)の親友・岩下を演じた田中邦衛さんの愛嬌といったら! ロケ中の健さんと邦衛さんが足を運んだというラーメン店の店主は「健さんは決まってカウンター席。野球帽を深くかぶってほおづえをつくと、意外と気づかれないんだよ。邦衛さんはすぐばれちゃうんだけどね(笑)」と話し、映画と同じような仲の良さを垣間見た気がした。
物語は、店に英治の昔の恋人・さよ(大原麗子)が現れ、嫁ぎ先の牧場が火事になった晩に姿を消したことから急転する。この火事シーンは七飯町の東大沼で行われ、撮影に協力した地元消防団の男性は「とにかく1回勝負だ」というスタッフの緊張した声や、猛烈な火の勢いにヒヤヒヤしたことを鮮明に覚えていた。
そして舞台は札幌へ。さよを捜す英治の足取りをたどり、私がススキノ界隈を歩き回ったのは2015年のこと。街角に面影は残っていても、当時を知る人をなかなか見つけられずにいたら、大原麗子さんが歩いた路地にある焼き鳥店の大家さんがロケ写真をお持ちで、興奮しながら見せてもらったこともあった。
物語終盤、健さんたちが火葬場に向かう函館山の場面には、地元の住職親子が本業の役柄で出演。「後ろに船が通るまで40分ほど待った」「ちあきなおみさんはきれいだった」――。このシーンを見るたび、2人から聞いたロケ現場のこぼれ話が脳裏をよぎる。
こうして人から思い出を分けてもらうたび、「居酒屋兆治」への思いは強まっていった。どの記憶も、映画さながらに悲喜こもごもの人生模様を浮かび上がらせる、味わい深いエピソードだった。
ただひとつ、「居酒屋兆治」にまつわる出来事で悔やまれることが。札幌のロケ地にある焼き鳥店を今年再訪した際、見知らぬ客にこの作品の良さをつい力説してしまったのだ。今思えば、迷惑な酔っ払いだっただろう。反省。原作者・山口瞳さんのエッセーを引用して自分を慰めたい。「酒では失敗ばかりしていた。(中略)酒だけを考えてみても、この人生大変なんだ」。
文&イラスト 新目七恵(あらため・ななえ) ライター、ZINE「映画と握手」発行人。「居酒屋兆治」で大原麗子さんが歩いた札幌・ススキノの路地はラーメン店「けやき」が角にある木造ビル「睦会館」の西側です。周辺ではNetflixドラマ「First Love 初恋」の満島ひかりさん出演シーンや、松重豊さん主演ドラマ特別編「孤独のグルメ2022大晦日スペシャル」のワンシーンも撮影されました。
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中学生・高校生のときめく恋心や切ない青春を描く、いわゆる“キラキラ映画”にいまいち乗れないのは、私自身それほどキラキラした覚えがないからかもしれない。読む
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バナナは夜食にぴったりだけれど、眠たい深夜、食べたいと人に頼まれたらどうだろう。相手は重度の身体障害者で、自分はボランティア(映画の中では主人公に「ボラ」と呼ばれる)の介助者だ。読む
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ちょうど67年前の今頃、夕張炭鉱は興奮に沸いていた。なぜなら、〝ベルさん″の愛称で親しまれる人気女優・山田五十鈴が、自分たちと同じ坑夫姿で映画撮影に励んでいたからだ。読む
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「コタン」とは「集落」を意味するアイヌ語で、最近では朝の連続テレビ小説「なつぞら」主題歌の歌詞に登場して新鮮な思いがした。読む
美人に弱い恐妻家の社長(森繁久彌)、気配り上手な常務(加東大介)、真面目一辺倒の技術部長(小林桂樹)、なまりが強烈な豪快社員(フランキー堺)。読む
ミステリーに疎い私でも、タイトルだけは知っていた「点と線」。原作は、作家・松本清張が初めて手掛けた長編推理小説で、雑誌の連載が終了したその年のうちに映画化して話題を集めたのが本作だ。読む
“マイトガイのアキラ”と聞けば、この作品を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。日活黄金期の看板スター・小林旭の代表作であり、一世を風靡した「渡り鳥」シリーズの第1作。読む
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30本以上の北海道ロケ映画に出演した高倉健。男気あるやくざや、実直な仕事人など、北の果てに生きる一本気な男を魅力的に体現した彼のイメージを一言でいうなら“寡黙で不器用”。読む
「テキヤ殺すにゃ刃物は要らぬ。雨の3日も降りゃあいい」。映画「男はつらいよ」の主人公・車寅次郎(渥美清)は、ご存じ啖呵売の露天商。読む