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>HOME >映画と握手 >「君よ憤怒の河を渉れ」(2020/6/16)

君よ憤怒の河を渉れ(1976年)

監督:佐藤純彌
ロケ地:浦河、様似

 “伝説の映画”に期待し過ぎて、肩透かしを食うことがある。高倉健さんファンには申し訳ないけれど、彼が主演した「君よ憤怒の河を渉れ」もそのひとつ。日本より3年遅れて公開された中国で社会現象を巻き起こすほど大ヒットしたというサスペンス大作だ。

 物語は、エリート検事の杜丘(もりおか・高倉健)が身に覚えのない強盗強姦と窃盗容疑で逮捕されたことから始まる。逃亡した彼は、被害を訴えた女を探して石川県の能登半島へ。ところが彼女は殺されていた!もう一人の目撃者を追って向かったのは、ここ北海道。現地の警察網をかいくぐった彼は日高の山へ逃げ……。と、ここまでは緊迫感のある逃亡劇。だがこの後の展開に、私は思わず吹き出してしまった。 山で杜丘は叫び声を耳にする。なんと、クマに襲われ、木の上にしがみつく女性がいるではないか!危機一髪で助けられた彼女こそ、ヒロイン・真由美(中野良子)。本作で一躍スターとなる中野は迫真の演技だけれど、悲しいかなこのクマが明らかに着ぐるみなのだ。杜丘を追いかけるアクの強い警部・矢村(原田芳雄)も凶悪クマと対決するのだが、どこかコントに見えてしまうのが惜しい。

 そんなことを思いながら西村寿行の原作小説を読んでみたら、実はあのクマが重要な存在だと分かってびっくり。原作には、家族を殺された恨みからクマを狙うアイヌ老人が登場。この老人にかくまわれた杜丘は「追う/追われる」という表裏一体の関係について思索を巡らせる。そして、孤独な逃亡生活で体感した「人間が人間を狩ること=マンハント」の恐ろしさを痛感するのである。たとえ無実であっても、権力に狙われた彼は大衆の標的となった。逃げ場のない“正義”の目にさらされたとき、人は何を信じ、何のために生きるべきなのか……。彼の問いかけは、「自粛警察」なる言葉が生まれ、どこかギスギスした今の世の中でも十分通用する重みを持っている。

 ちなみに映画は、杜丘がセスナを操縦して東京に舞い戻ったり、新宿で警察に囲まれピンチのところをサラブレットの大暴走に救われたりと荒唐無稽なアクションがてんこ盛り。娯楽活劇の本作が、なぜ中国で熱狂的に支持されたかといえば、勧善懲悪的なストーリーが文化大革命後の人々の心を捉えたのだとか。信念を持って生きる健さんの姿は、今もなお多くの観客の胸に残っている。

 ところで、健さんが北海道のシーンで乗る列車は、以前このコラムで取り上げた映画「結婚 佐藤・名取御両家篇」(1993年)にも登場した日高線(ロケ時は国鉄)。彼が降りた西様似駅周辺には丸太が積み上げられているけれど、この地域には終戦まで森林鉄道が走り、現在も製材工場の貯木場があるそう。日高線の鵡川―様似間は高波被害で2015年から不通となり、廃線の見込み。わずかなシーンに映るありふれた光景に、どうしようもない懐かしさがこみ上げる。

 

イラスト&文 新目七恵(あらため・ななえ)

ライター、ZINE「映画と握手」発行人。「君よ憤怒の河を渉れ」はジョン・ウー 監督によってリメイクされ、福山雅治&チャン・ハンユー W 主演「マンハント」(2017 年)として公開されました。また、西村寿行の原作映画はサロベツロケ「犬 笛」(1978 年)、標津・厚岸ロケ「黄金の犬」(1979 年)、大雪山系・層雲峡ロケ「化 石の荒野」(1982 年)もあります。

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映画と握手 vol.34 2021年10月18日

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映画と握手 vol.32 2021年8月16日

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映画と握手 vol.31 2021年7月19日

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映画と握手 vol.30 2021年6月21日

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映画と握手 vol.29 2021年5月17日

ガメラ 2 レギオン襲来(1996年)

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映画と握手 vol.28 2021年4月19日

アイヌモシリ(2020年)

映画館の暗闇で、久しぶりに心が震えた。ワンシーンごとにヒリヒリした痛みを感じ、場内が明るくなってもすぐに席を離れたくないような深い余韻に打たれた。読む

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ハルフウェイ(2009年)

中学生・高校生のときめく恋心や切ない青春を描く、いわゆる“キラキラ映画”にいまいち乗れないのは、私自身それほどキラキラした覚えがないからかもしれない。読む

映画と握手 vol.26 2021年2月16日

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今年は見ることができるだろうか。ニシンの放精で海が白く濁る現象「群来(くき)」を。読む

映画と握手 vol.25 2021年1月18日

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いつか南極に行きたい。無謀と笑われそうな夢を、わりと本気で抱いている。読む

映画と握手 vol.24 2020年12月21日

駅 STATION(1981年)

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映画と握手 vol.23 2020年11月16日

喜びも悲しみも幾歳月(1957年)

千葉・犬吠埼(いぬぼうさき)灯台など国内4カ所の灯台が国の重要文化財に指定されるという。読む

映画と握手 vol.22 2020年10月19日

田んぼdeミュージカル(2003年)

黄金色の稲穂のじゅうたんが、風に揺れていた。9月中旬、家族でぶどう狩りをした帰り道、後志管内赤井川村で目にした光景だ。読む

映画と握手 vol.21 2020年9月23日

魚影の群れ(1983年)

9月11日は女優・夏目雅子さんの命日だった。35年前、27歳の若さでこの世を去った彼女が、あふれんばかりの輝きを刻んだ1本が、マグロ漁を巡る人間ドラマ「魚影の群れ」だ。読む

映画と握手 vol.20 2020年8月18日

シムソンズ(2006年)

言うだけ野暮だと思うけれど、新型コロナウイルス感染症の流行がなければ、今頃は東京五輪の興奮冷めやらぬ時期だっただろう。読む

映画と握手 vol.19 2020年7月20日

羊と鋼の森(2018年)

ピアノに縁はないけれど、ピアニストに憧れている。プロでなくても、「ピアノが弾ける」「音符が読める」と聞けば尊敬の眼差し。読む

映画と握手 vol.18 2020年6月16日

君よ憤怒の河を渉れ(1976年)

伝説の映画に期待し過ぎて、肩透かしを食うことがある。高倉健さんファンには申し訳ないけれど、彼が主演した「君よ憤怒の河を渉れ」もそのひとつ読む

映画と握手 vol.17 2020年5月18日

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気に入った小説に出会うと、映画化するなら誰をキャスティングしたいか夢想するクセがある。読む

映画と握手 vol.16 2020年4月20日

モルエラニの霧の中(2019年)

モルエラニ」とは「小さな下り坂」という意味のアイヌ語で、「室蘭」の語源のひとつ。読む

映画と握手 vol.15 2020年3月17日

森と湖のまつり(1958年)

実在した樺太(サハリン)アイヌを主人公にした歴史小説『熱源』が直木賞に選ばれた。読む

映画と握手 vol.14 2020年2月17日

こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話(2018年)

バナナは夜食にぴったりだけれど、眠たい深夜、食べたいと人に頼まれたらどうだろう。相手は重度の身体障害者で、自分はボランティア(映画の中では主人公に「ボラ」と呼ばれる)の介助者だ。読む

映画と握手 vol.13 2020年1月20日

海炭市叙景(2010年)

「人生のベスト映画は?」と聞いては相手を困らせている私だが、逆に質問されると真っ先に挙げるのが、映画「海炭市叙景」だ。読む

映画と握手 vol.12 2019年12月16日

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メールやSNSが当たり前の今だからこそ、直筆の手紙は嬉しい。それがたとえ、不格好な文字やつたない文面だったとしても。読む

映画と握手 vol.11 2019年11月18日

氷点(1966年)

秋も深まる10月半ば、家族を誘って旭川へ行ってきた。この地が生んだ作家、三浦綾子(1922~99年)の功績を伝える「三浦綾子記念文学館」を再訪するためである。読む

映画と握手 vol.10 2019年10月21日

女ひとり大地を行く(1953年)

ちょうど67年前の今頃、夕張炭鉱は興奮に沸いていた。なぜなら、〝ベルさん″の愛称で親しまれる人気女優・山田五十鈴が、自分たちと同じ坑夫姿で映画撮影に励んでいたからだ。読む

映画と握手 vol.9 2019年9月17日

探偵はBARにいる(2011年)

本物の探偵には会ったことがないけれど、映画に出てくる探偵は格好いい。といっても私が好きなのは、どこかおどけて三枚目、でも、ここぞという時には強くて優しい、哀愁漂う探偵だ。読む

映画と握手 vol.8 2019年8月27日

コタンの口笛(1959年)

「コタン」とは「集落」を意味するアイヌ語で、最近では朝の連続テレビ小説「なつぞら」主題歌の歌詞に登場して新鮮な思いがした。読む

映画と握手 vol.7 2019年7月17日

結婚 佐藤・名取御両家篇(1993年)

「浦河の大黒座」といえば、昨年創業100周年を迎えた道内最古の老舗映画館だから、ご存じの方も多いだろう。読む

映画と握手 vol.6 2019年6月17日

社長忍法帖 (1965年)

美人に弱い恐妻家の社長(森繁久彌)、気配り上手な常務(加東大介)、真面目一辺倒の技術部長(小林桂樹)、なまりが強烈な豪快社員(フランキー堺)。読む

映画と握手 vol.5 2019年5月20日

点と線(1958年)

ミステリーに疎い私でも、タイトルだけは知っていた「点と線」。原作は、作家・松本清張が初めて手掛けた長編推理小説で、雑誌の連載が終了したその年のうちに映画化して話題を集めたのが本作だ。読む

映画と握手 vol.4 2019年4月16日

ギターを持った渡り鳥(1959年)

“マイトガイのアキラ”と聞けば、この作品を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。日活黄金期の看板スター・小林旭の代表作であり、一世を風靡した「渡り鳥」シリーズの第1作。読む

映画と握手 vol.3 2019年3月18日

銀の匙 Silver Spoon (2014年)

北海道の農業高校を舞台にした同名人気マンガの実写映画化。青春学園ものとはいえ、内容はよくある恋愛系でも、スポーツ系でもない。読む

映画と握手 vol.2 2019年2月18日

幸福の黄色いハンカチ (1977年)

30本以上の北海道ロケ映画に出演した高倉健。男気あるやくざや、実直な仕事人など、北の果てに生きる一本気な男を魅力的に体現した彼のイメージを一言でいうなら“寡黙で不器用”。読む

映画と握手 vol.1 2019年1月21日

男はつらいよ 寅次郎忘れな草 (1973年)

「テキヤ殺すにゃ刃物は要らぬ。雨の3日も降りゃあいい」。映画「男はつらいよ」の主人公・車寅次郎(渥美清)は、ご存じ啖呵売の露天商。読む

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