VOL.6
美人に弱い恐妻家の社長(森繁久彌)、気配り上手な常務(加東大介)、真面目一辺倒の技術部長(小林桂樹)、なまりが強烈な豪快社員(フランキー堺)。黙っていてもおかしいこの4人がイラストですすっているのは札幌ラーメン。それも、みそ味の元祖とされる「味の三平」である。
クレージーシリーズ・若大将シリーズ・駅前シリーズと並び、“東宝四大喜劇”と呼ばれた森繁主演の「社長シリーズ」。毎回、とある企業の社長(森繁)が、一大契約を成功させるべく部下と奮闘。一方で浮気を試みるも、こちらは未遂に終わる…というのがお約束のパターンだ。
シリーズは第21作「社長紳士録」で一度完結したものの、その人気から再スタートとなり、復活第1弾が本作。なぜ札幌を舞台に選んだかといえば、中島公園に出来たばかりの「ホテル三愛」(札幌パークホテルの前身)の市村清社長から要請があったと、後に松林宗恵監督が明かしている。
「ホテル三愛」は東京オリンピックの3ヵ月前、1964年7月に開業した。地下3階・地上11階建てで、当時、札幌グランドホテルしかなかった札幌に“ホテル戦争”を巻き起こしたというから、出張で訪れた社長がその豪華さを褒めるのもあながちサービス演出とはいえない。ところが、ホテルは開業2年目に経営が悪化。映画公開の翌年には北炭観光開発(当時)に経営が移り、「札幌パークホテル」へと変わってしまう。時代の変化に適応するのがビジネスの常とはいえ、ロケ誘致に奔走したホテル関係者の努力と興奮、その後の落胆を思うと、映画で描かれるサラリーマンの哀歓とどこか重なって見える。
1972年に冬季オリンピックを控えた札幌の街は、まさに変貌期にあった。映画では、真新しい千歳空港ターミナルビルや真駒内団地の造成現場などを背景に織り込みながら、社長一行が珍出張(?)を展開。たとえば、「味の三平」の場面では、加東が「スープを持ち帰りたい」と店主に頼む傍らで、森繁社長はこれから歓楽街に繰り出そうとにやけ顔。ところが、仕事ぶりに注文を付けられ不満が収まらない小林が水を差す一言を吐き、フランキーをあ然とさせる。
ここに、芸者遊びしか頭にない部長(三木のり平)が加わるともう最強。色気で迫るマダム・新珠三千代や団令子らも入っててんやわんやの末、丸く収まる結末がなんとも大らか。アハハと笑って明るくなれる、そんなコメディは大好きだけれど、令和時代を生きる身としては、昭和のサラリーマン社会の明るさと気楽さが、うらやましくもあり、ちょっと疎ましくもある。
イラスト&文 新目七恵(あらため・ななえ)
ライター、ZINE「映画と握手」発行人、NPO法人「北の映像ミュージアム」スタッフ。6月2日に閉店したディノスシネマズ札幌劇場は最後まで充実のラインナップ。「シング・ストリート 未来のうた」をスクリーンで見て号泣。早期再開を渇望しています。
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