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画像:AFC アサヒファミリークラブのロゴマーク

>HOME >映画と握手 >「挽歌」(2020/5/18)

挽歌(1957年)

監督:五所平之助
ロケ地:釧路、札幌

 気に入った小説に出会うと、映画化するなら誰をキャスティングしたいか夢想するクセがある。それは作家も同じようで、原田康子さんは自身の出世作「挽歌」の映画化に際し、「(ヒロイン)怜子が久我美子さん。(相手役の)桂木さんが森雅之さん。桂木夫人は...ちょっとわからない」とイメージを語ったらしい。その望み通り、当時の日本映画界を代表する2人が共演し、桂木夫人役にスター女優・高峰三枝子を迎えた映画「挽歌」は、日本中で一大ブームを巻き起こした。

 私は6年前、札幌の自主上映会で観たけれど、強く印象にあるのはモノクロで映し出された昭和30年代のモダンな釧路の街並みと、ボーっと響く霧笛の音。そして、白樺林の美しさだ。あのロマンティックな霧の街を舞台にどんな物語が繰り広げられたのかと原作を読み返したら、孤独な青春を過ごす主人公・兵藤怜子(久我)が中年の建築家・桂木(森)と妻あき子(高峰)の崩れかかった夫婦生活を知り、好奇心から近づいた結果、それぞれと親しくなり愛の葛藤に苦しむ...という複雑なメロドラマだった。

 あらすじを追うとドロドロした三角関係にも聞こえるが、小説も映画もそんな雰囲気はなく、むしろ上品で繊細。とりわけ、若さゆえの残酷さとキュートさを併せ持つヒロイン・怜子が大人の世界に触れる驚きと喜び、そして哀しみは普遍的で、映画で演じた久我の魅力も相まってセーターにパンツ姿の怜子スタイルが大流行したという。セーターといえば、北海道ロケは公開年の6月に4週間ほど行われたが、道東特有の寒さから久我は「初夏なのにセーターを着込んで冬支度」したそう。最後に美しい死に顔を見せる高峰も「スタッフからウイスキーをもらってガブガブ飲み、やっと体が温まって本番になった」と裏話を明かしている。

 そんな厳しい北の風土から生まれた「挽歌」は長く愛され、1976年にも河崎義祐監督で再映画化。注目の配役は怜子=秋吉久美子、桂木=仲代達矢、桂木夫人=草笛光子で、こちらは釧路のほか風蓮湖や野付半島でもロケされた。テレビドラマ化も多く、倉本聰が脚本を担当した1971年版では木村夏江、佐藤慶、小山明子が出演。今映像化するなら誰が怜子にふさわしいだろう...そんな妄想を膨らませるのも面白い。

 ところで、原田さんに続き、今の釧路を代表するもう1人の女性作家・桜木紫乃さんは14歳のとき初めて読んだ小説が「挽歌」だという。札幌の上映会で登壇した彼女は「何気なく目にしていた町の景色が違って見えた」と読後の衝撃を振り返っていた。その小説体験が直木賞作家の誕生につながったとすれば、文学と土地が持つ力を思わずにいられない。そしてこの冬には、桜木さんの直木賞受賞作「ホテルローヤル」の映画化作品が公開予定。「挽歌」で〝さいはての国〟とされた釧路の街がどう描かれるのか。風景の見え方をガラリと変える物語の魔法を、今度も存分に味わいたい。

イラスト&文 新目七恵(あらため・ななえ)

ライター、ZINE「映画と握手」発行人。原田小説の映画化作品は、1958 年の 函館ロケ「白い悪魔」(原作「夜の出帆」、斎藤武市監督、森雅之・野添ひとみ出演)、 1991 年の札幌ロケ「満月 MR.MOONLIGHT」(原作「満月」、大森一樹監督、 原田知世・時任三郎出演)も。が、「挽歌」含めどれも DVD 化されておらず、 特に「白い悪魔」は VHS もなし。いつかスクリーンでお目にかかりたい!

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映画と握手 vol.56 2023年8月21日

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映画と握手 vol.54 2023年6月19日

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映画と握手 vol.51 2023年3月20日

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映画と握手 vol.49 2023年1月16日

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タトゥー(刺青〈いれずみ〉)を入れた若い女性を、近所の銭湯で見かけたことがある。読む

映画と握手 vol.47 2022年11月21日

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 恐れ多くて近付けない。けれど、一度はお会いしてみたい憧れの脚本家、倉本聰さん。読む

映画と握手 vol.46 2022年10月17日

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北海道の牛乳を毎朝飲んでいる。子どもの頃から当たり前だったこの味が、実はものすごく美味しくて、たくさんの努力と苦労の上に成り立っていることを知ったのは大人になってから。読む

映画と握手 vol.45 2022年9月20日

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68年前の1954年9月、北海道は悲痛な思いに沈んでいた。26日に到達した台風15号が、函館港に停泊中の青函連絡船「洞爺丸」など5隻を転覆・沈没、さらに日本海に面した岩内町に大火をもたらしたのだ。前者は死者1430人に上り、後者は町の3分の2を焼き尽くす大惨事となった。読む

映画と握手 vol.44 2022年8月15日

椿姫(1988年)

タクシーに乗ると、運転手さんの自己紹介プレートがたまに掛かっていて、「趣味」の欄に「映画」とあると、つい声を掛けたくなる。読む

映画と握手 vol.43 2022年7月19日

荒い海(1969年)

四方を海に囲まれた北海道。漁業生産量は全国の約2割を占め、漁業従事者数も日本一の「水産王国」とあって、ロケ作に漁師が登場することも少なくない。読む

映画と握手 vol.42 2022年6月20日

愛と憎しみの彼方へ(1951年)

「黒澤明が世に送り出した珠玉の名作が、今、甦る!」と銘打った「黒澤明DVDコレクション」(朝日新聞出版)のラインアップに、未見の北海道ロケ映画「愛と憎しみの彼方へ」を見つけたのは今年初めのこと。読む

映画と握手 vol.41 2022年5月16日

ハナミズキ(2010年)

タイトルだけで、切なくも艶のある、あの独特な歌声がよみがえる。映画「ハナミズキ」は、大ヒットした一青窈の同名曲をモチーフに制作されたラブストーリー。読む

映画と握手 vol.40 2022年4月18日

塩狩峠(1973年)

今年生誕100年を迎える旭川生まれの作家・三浦綾子(1922-99)。彼女原作の映画は、文壇デビュー作「氷点」(1966年、山本薩夫監督)を皮切りに、「われ弱ければ 矢嶋楫子伝」(2022年、山田火砂子監督)まで6本。読む

映画と握手 vol.39 2022年3月22日

銀のエンゼル(2004年)

週に2、3回はコンビニに行く。仕事の資料を印刷したり、支払いを済ませたり。最近は、店限定のスナックが欲しくて数店舗を探し歩いたこともあった。読む

映画と握手 vol.38 2022年2月21日

管制塔(2011年)

稚内生まれのロックバンド、Galileo Galilei(ガリレオ・ガリレイ)をご存じだろうか。2010年、10代の若さでメジャーデビューすると、CMソングやアニメ主題歌で一躍人気となった道産子アーティスト。読む

映画と握手 vol.37 2022年1月17日

白痴(1951年)

高校生の時「七人の侍」の面白さに衝撃を受け、20代で「生きる」を観てさめざめと涙を流した私が、同じ黒澤明監督の「白痴」を知ったのは10年ほど前。札幌に引っ越した30代始めの頃だった。読む

映画と握手 vol.36 2021年12月20日

鉄道員 ぽっぽや (1999年)

「幌舞(ほろまい)駅」のホームには、小雪がちらついていた。札幌で遅い初雪が降った11月下旬、南富良野町に向かった。読む

映画と握手 vol.35 2021年11月16日

馬喰一代(1951年)

岩見沢にあったばんえい競馬場の仕事に祖父が携わり、今や世界で唯一の開催地となった帯広で育った私だが、馬を身近に感じたことはなかった。読む

映画と握手 vol.34 2021年10月18日

ガチ☆ボーイ(2008年)

ロケ地にこだわる私が言うのも可笑しいが、映画の魅力は俳優によるところも大きい。読む

映画と握手 vol.33 2021年9月21日

おろしや国酔夢譚(1992年)

歴史にまったく疎いので、史実を題材にした映画を避けてきた私が、この「おろしや国酔夢譚」を紹介したくなったのは、道内唯一の人形浄瑠璃公演一座・さっぽろ人形浄瑠璃芝居あしり座の公演「大黒屋光太夫ロシア漂流記」(2021年2月)を観たから。読む

映画と握手 vol.32 2021年8月16日

満月 MR.MOONLIGHT(1991年)

300年後の北海道はどうなっているのだろう。町のありようも、人の暮らしぶりも、きっと様変わりしているだろうけれど、正直言って想像出来ない。読む

映画と握手 vol.31 2021年7月19日

きみはいい子(2015年)

「母親」になって早7年。演技だと分かっていても、子どもが親に痛めつけられるシーンは苦手だ。読む

映画と握手 vol.30 2021年6月21日

網走番外地(1965年)

田中邦衛が亡くなった。享年88。ドラマなら、富良野ロケ「北の国から」で演じた子ども思いの実直な父・黒板五郎をまず思い浮かべるが、北海道ロケの映画にも、意外とたくさん出演している。読む

映画と握手 vol.29 2021年5月17日

ガメラ 2 レギオン襲来(1996年)

太古に生きた恐竜の化石が数多く発掘され、注目を集める北海道。映画に関して言えば、空想上の巨大生物“怪獣”が何度か上陸し、スクリーンの中の道民をパニックに陥れている。読む

映画と握手 vol.28 2021年4月19日

アイヌモシリ(2020年)

映画館の暗闇で、久しぶりに心が震えた。ワンシーンごとにヒリヒリした痛みを感じ、場内が明るくなってもすぐに席を離れたくないような深い余韻に打たれた。読む

映画と握手 vol.27 2021年3月16日

ハルフウェイ(2009年)

中学生・高校生のときめく恋心や切ない青春を描く、いわゆる“キラキラ映画”にいまいち乗れないのは、私自身それほどキラキラした覚えがないからかもしれない。読む

映画と握手 vol.26 2021年2月16日

ジャコ萬と鉄(1949年)

今年は見ることができるだろうか。ニシンの放精で海が白く濁る現象「群来(くき)」を。読む

映画と握手 vol.25 2021年1月18日

南極料理人(2009年)

いつか南極に行きたい。無謀と笑われそうな夢を、わりと本気で抱いている。読む

映画と握手 vol.24 2020年12月21日

駅 STATION(1981年)

居酒屋のカウンターで、男と女が酒を酌み交わしている。男は通りすがりの一見さん、女は店のママだ。読む

映画と握手 vol.23 2020年11月16日

喜びも悲しみも幾歳月(1957年)

千葉・犬吠埼(いぬぼうさき)灯台など国内4カ所の灯台が国の重要文化財に指定されるという。読む

映画と握手 vol.22 2020年10月19日

田んぼdeミュージカル(2003年)

黄金色の稲穂のじゅうたんが、風に揺れていた。9月中旬、家族でぶどう狩りをした帰り道、後志管内赤井川村で目にした光景だ。読む

映画と握手 vol.21 2020年9月23日

魚影の群れ(1983年)

9月11日は女優・夏目雅子さんの命日だった。35年前、27歳の若さでこの世を去った彼女が、あふれんばかりの輝きを刻んだ1本が、マグロ漁を巡る人間ドラマ「魚影の群れ」だ。読む

映画と握手 vol.20 2020年8月18日

シムソンズ(2006年)

言うだけ野暮だと思うけれど、新型コロナウイルス感染症の流行がなければ、今頃は東京五輪の興奮冷めやらぬ時期だっただろう。読む

映画と握手 vol.19 2020年7月20日

羊と鋼の森(2018年)

ピアノに縁はないけれど、ピアニストに憧れている。プロでなくても、「ピアノが弾ける」「音符が読める」と聞けば尊敬の眼差し。読む

映画と握手 vol.18 2020年6月16日

君よ憤怒の河を渉れ(1976年)

伝説の映画に期待し過ぎて、肩透かしを食うことがある。高倉健さんファンには申し訳ないけれど、彼が主演した「君よ憤怒の河を渉れ」もそのひとつ読む

映画と握手 vol.17 2020年5月18日

挽歌(1957年)

気に入った小説に出会うと、映画化するなら誰をキャスティングしたいか夢想するクセがある。読む

映画と握手 vol.16 2020年4月20日

モルエラニの霧の中(2019年)

モルエラニ」とは「小さな下り坂」という意味のアイヌ語で、「室蘭」の語源のひとつ。読む

映画と握手 vol.15 2020年3月17日

森と湖のまつり(1958年)

実在した樺太(サハリン)アイヌを主人公にした歴史小説『熱源』が直木賞に選ばれた。読む

映画と握手 vol.14 2020年2月17日

こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話(2018年)

バナナは夜食にぴったりだけれど、眠たい深夜、食べたいと人に頼まれたらどうだろう。相手は重度の身体障害者で、自分はボランティア(映画の中では主人公に「ボラ」と呼ばれる)の介助者だ。読む

映画と握手 vol.13 2020年1月20日

海炭市叙景(2010年)

「人生のベスト映画は?」と聞いては相手を困らせている私だが、逆に質問されると真っ先に挙げるのが、映画「海炭市叙景」だ。読む

映画と握手 vol.12 2019年12月16日

Love Letter(1995年)

メールやSNSが当たり前の今だからこそ、直筆の手紙は嬉しい。それがたとえ、不格好な文字やつたない文面だったとしても。読む

映画と握手 vol.11 2019年11月18日

氷点(1966年)

秋も深まる10月半ば、家族を誘って旭川へ行ってきた。この地が生んだ作家、三浦綾子(1922~99年)の功績を伝える「三浦綾子記念文学館」を再訪するためである。読む

映画と握手 vol.10 2019年10月21日

女ひとり大地を行く(1953年)

ちょうど67年前の今頃、夕張炭鉱は興奮に沸いていた。なぜなら、〝ベルさん″の愛称で親しまれる人気女優・山田五十鈴が、自分たちと同じ坑夫姿で映画撮影に励んでいたからだ。読む

映画と握手 vol.9 2019年9月17日

探偵はBARにいる(2011年)

本物の探偵には会ったことがないけれど、映画に出てくる探偵は格好いい。といっても私が好きなのは、どこかおどけて三枚目、でも、ここぞという時には強くて優しい、哀愁漂う探偵だ。読む

映画と握手 vol.8 2019年8月27日

コタンの口笛(1959年)

「コタン」とは「集落」を意味するアイヌ語で、最近では朝の連続テレビ小説「なつぞら」主題歌の歌詞に登場して新鮮な思いがした。読む

映画と握手 vol.7 2019年7月17日

結婚 佐藤・名取御両家篇(1993年)

「浦河の大黒座」といえば、昨年創業100周年を迎えた道内最古の老舗映画館だから、ご存じの方も多いだろう。読む

映画と握手 vol.6 2019年6月17日

社長忍法帖 (1965年)

美人に弱い恐妻家の社長(森繁久彌)、気配り上手な常務(加東大介)、真面目一辺倒の技術部長(小林桂樹)、なまりが強烈な豪快社員(フランキー堺)。読む

映画と握手 vol.5 2019年5月20日

点と線(1958年)

ミステリーに疎い私でも、タイトルだけは知っていた「点と線」。原作は、作家・松本清張が初めて手掛けた長編推理小説で、雑誌の連載が終了したその年のうちに映画化して話題を集めたのが本作だ。読む

映画と握手 vol.4 2019年4月16日

ギターを持った渡り鳥(1959年)

“マイトガイのアキラ”と聞けば、この作品を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。日活黄金期の看板スター・小林旭の代表作であり、一世を風靡した「渡り鳥」シリーズの第1作。読む

映画と握手 vol.3 2019年3月18日

銀の匙 Silver Spoon (2014年)

北海道の農業高校を舞台にした同名人気マンガの実写映画化。青春学園ものとはいえ、内容はよくある恋愛系でも、スポーツ系でもない。読む

映画と握手 vol.2 2019年2月18日

幸福の黄色いハンカチ (1977年)

30本以上の北海道ロケ映画に出演した高倉健。男気あるやくざや、実直な仕事人など、北の果てに生きる一本気な男を魅力的に体現した彼のイメージを一言でいうなら“寡黙で不器用”。読む

映画と握手 vol.1 2019年1月21日

男はつらいよ 寅次郎忘れな草 (1973年)

「テキヤ殺すにゃ刃物は要らぬ。雨の3日も降りゃあいい」。映画「男はつらいよ」の主人公・車寅次郎(渥美清)は、ご存じ啖呵売の露天商。読む

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