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監督:相米慎二
ロケ地:増毛
9月11日は女優・夏目雅子さんの命日だった。35年前、27歳の若さでこの世を去った彼女が、あふれんばかりの輝きを刻んだ1本が、マグロ漁を巡る人間ドラマ「魚影の群れ」だ。夏目さんは、老練な漁師の父・小浜房次郎(緒形拳)に愛憎をたぎらせる“海の女”トキ子を熱演している。
原作者の吉村昭は、徹底した取材をもとにした記録文学に長けた作家だが、この小説はフィクション。とはいえ、津軽海峡で今も行われているマグロの一本釣りに関する描写は精緻だ。網を使わず、針と糸でマグロを釣り上げるこの伝統漁法は、時に数時間にも及ぶそう。過酷なマグロとの闘いをカメラに収める難しさから、映画化はなかなか実現しなかったそうだが、本作では漁師役の緒形拳が自らマグロの手釣りに挑戦。北海道の積丹沖にまで足を運び、見事成功した迫力あるシーンは、何と映画公開の約2カ月前に撮影されたという。
無口で頑固な房次郎に対し、夏目さん演じるトキ子は明朗快活。命懸けで海と向き合う父を慕いつつ、父に結婚相手として認めてもらえない恋人・依田(佐藤浩市)を支える女性を情熱的に演じている。夏目さんは「自然との闘いのドラマ。女にも精神力のたくましさがあることをお見せします」とコメントしたそうだが、映画のラスト、海の試練を受ける彼女の姿は、痛ましくも凛々しい。テストを何十回も繰り返すなど厳しい演出で有名な相米慎二監督が、このとき現場に入った夏目さんの鬼気迫る様子に「早く撮らせろ」とスタッフをせかしたという裏話が伝わっている。
メイン舞台は青森県大間の漁港だが、映画オリジナルの重要な場面に増毛の町が登場する。マグロの陸揚げで北海道の港に滞在した房次郎が、20年前に出奔した妻のアヤ(十朱幸代)と再会する劇的なシーンだ。雨の中、逃げる彼女を房次郎がまるでマグロの一本釣りのように追い掛ける展開は、カットせず撮影し続ける「長回し」の効果もあって強烈な印象を残す。
増毛ロケで使われた木造三階建ての「旧富田屋旅館」は、1933(昭和8)年に建築された歴史的建造物。旅人や海水浴客でにぎわう人気の駅前旅館だったが、1970年代後半に営業を終了。老朽化が進み、管理する増毛町が保存支援を呼び掛けている。
増毛ロケといえば、高倉健さん主演「駅 STATION」(1981年)を思い出す方もいるだろう。JR留萌本線・留萌-増毛間が廃止になる直前の2016年冬、増毛を訪れた私は、観光案内所となった「駅 STATION」のロケ地「風待食堂」を訪問。たくさんのロケ写真が飾られ、感激したのを覚えている。隣接する「旧富田屋旅館」も、映画の記憶を宿し、街の歩みを知る貴重な“語り部”として大切にしたい。
ライター、ZINE「映画と握手」発行人。小学~高校時代を北海道で過ごした相米慎二監督は、本作の後も斉藤由貴主演の札幌ロケ「雪の断章-情熱-」(1985年)、札幌在住の作家・小檜山博の作品を原作とした滝上・網走ロケ「光る女」(1987年)を発表。小泉今日子、浅野忠信が道内を巡るロードムービー「風花」(2001年)が遺作となりました。
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黄金色の稲穂のじゅうたんが、風に揺れていた。9月中旬、家族でぶどう狩りをした帰り道、後志管内赤井川村で目にした光景だ。読む
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伝説の映画に期待し過ぎて、肩透かしを食うことがある。高倉健さんファンには申し訳ないけれど、彼が主演した「君よ憤怒の河を渉れ」もそのひとつ読む
バナナは夜食にぴったりだけれど、眠たい深夜、食べたいと人に頼まれたらどうだろう。相手は重度の身体障害者で、自分はボランティア(映画の中では主人公に「ボラ」と呼ばれる)の介助者だ。読む
メールやSNSが当たり前の今だからこそ、直筆の手紙は嬉しい。それがたとえ、不格好な文字やつたない文面だったとしても。読む
秋も深まる10月半ば、家族を誘って旭川へ行ってきた。この地が生んだ作家、三浦綾子(1922~99年)の功績を伝える「三浦綾子記念文学館」を再訪するためである。読む
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ミステリーに疎い私でも、タイトルだけは知っていた「点と線」。原作は、作家・松本清張が初めて手掛けた長編推理小説で、雑誌の連載が終了したその年のうちに映画化して話題を集めたのが本作だ。読む
“マイトガイのアキラ”と聞けば、この作品を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。日活黄金期の看板スター・小林旭の代表作であり、一世を風靡した「渡り鳥」シリーズの第1作。読む
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30本以上の北海道ロケ映画に出演した高倉健。男気あるやくざや、実直な仕事人など、北の果てに生きる一本気な男を魅力的に体現した彼のイメージを一言でいうなら“寡黙で不器用”。読む
「テキヤ殺すにゃ刃物は要らぬ。雨の3日も降りゃあいい」。映画「男はつらいよ」の主人公・車寅次郎(渥美清)は、ご存じ啖呵売の露天商。読む