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監督:熊切和嘉
ロケ地:函館
「人生のベスト映画は?」と聞いては相手を困らせている私だが、逆に質問されると真っ先に挙げるのが、映画「海炭市叙景」だ。「観ました」と稀に返されると「ありがとうございます!」と感謝し、「好きな作品です」と言われようものなら思わず握手したくなる。何を隠そう、私は製作実行委員のメンバー。もう10年ほど前になるが、映画化を応援し、ロケを手伝った市民スタッフの一人なのだ。
原作は函館出身の作家、故・佐藤泰志による未完の連作短編小説。函館を想起させる架空の地方都市・海炭(かいたん)市を舞台に、行き場のない思いを抱える人々の暮らしが活写されていく物語だ。映画化は、函館の市民映画館「シネマアイリス」代表の菅原和博さんが発案し、市民有志を集めて実現。ほぼ絶版だった佐藤の小説が復刊されるなどブームを起こし、以降も「そこのみにて光輝く」(2014年、呉美保監督)「オーバー・フェンス」(2016年、山下敦弘監督)「きみの鳥はうたえる」(2018年、三宅唱監督)と佐藤作品の映画化を続けるきっかけとなった作品でもある。
当時、函館の地域新聞記者だった私は、取材の傍ら、募金集めの朗読会やパネル作りに参加。いくら映画好きとはいえ、取材対象に肩入れするのはご法度だったかもしれない。けれど仕事の枠を超えて応援したのは、映画化のずっと前から佐藤文学を残そうと奔走していた人や、「佐藤さんの小説に救われた」という人の存在を知っていたから。何より私が「海炭市叙景」の世界に魅了されたからだ。仲間それぞれが熱い思いを秘めていて、そのドラマチックさに驚いていたら、いざロケが始まると、今度は映画のワンシーンが生まれるスリリングな瞬間に立ち会い、もう興奮の毎日だった。
ロケの思い出はキリがないけれど、たとえば、造船所で働く兄を演じた竹原ピストルさんの一本気な演技に涙し(特に函館山頂で妹と別れるときの表情ときたら!)、ガス屋の若社長役・加瀬亮さんの集中力に圧倒。と思えば、愛猫と暮らすトキ婆さんを演じた市民キャストが強烈な存在感を放ち、プロの俳優を驚嘆させたことも嬉しいサプライズだった。緊張感みなぎる現場を陰で支える録音や照明、美術、衣装など職人スタッフたちの情熱に触れることができたのも忘れられない。
そんなわけで、札幌の「シアターキノ」で迎えた完成上映会で私は号泣。その後もなかなか作品を客観視できなかったけれど、最近ようやく冷静に鑑賞して気づいたことがある。それは、ジム・オルークによる音楽の魅力。最初つたない印象だったメロディーが、登場人物たちが路面電車に乗り合わせるクライマックスでは重なり合い、美しい響きとなる。するとどうだろう、それまで痛々しい存在だった彼らが、まるで隣人のように思えてくるのだ。どんなにつらくても、悲しくても、この街で生きるしかない。彼らの心の声に共鳴するような優しい旋律は、北海道の片隅で生きる私自身に向けられたささやかな応援歌にも聞こえてくる。
1本の映画は無数の思いと技術が積み重なってできている。スクリーンの裏側に広がるたくさんの物語を教えてくれた「海炭市叙景」は、私にとってはやっぱり特別なマイ・ベストムービーなのである。
イラスト&文 新目七恵(あらため・ななえ)
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本物の探偵には会ったことがないけれど、映画に出てくる探偵は格好いい。といっても私が好きなのは、どこかおどけて三枚目、でも、ここぞという時には強くて優しい、哀愁漂う探偵だ。読む
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ミステリーに疎い私でも、タイトルだけは知っていた「点と線」。原作は、作家・松本清張が初めて手掛けた長編推理小説で、雑誌の連載が終了したその年のうちに映画化して話題を集めたのが本作だ。読む
“マイトガイのアキラ”と聞けば、この作品を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。日活黄金期の看板スター・小林旭の代表作であり、一世を風靡した「渡り鳥」シリーズの第1作。読む
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30本以上の北海道ロケ映画に出演した高倉健。男気あるやくざや、実直な仕事人など、北の果てに生きる一本気な男を魅力的に体現した彼のイメージを一言でいうなら“寡黙で不器用”。読む
「テキヤ殺すにゃ刃物は要らぬ。雨の3日も降りゃあいい」。映画「男はつらいよ」の主人公・車寅次郎(渥美清)は、ご存じ啖呵売の露天商。読む