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監督:西川美和
ロケ地:旭川
タトゥー(刺青〈いれずみ〉)を入れた若い女性を、近所の銭湯で見かけたことがある。カラフルな絵柄があまりに見事で、つい目がいきそうになるのをこらえていたら、客のおばちゃんと親し気に話していて、常連さんと分かった。映画「すばらしき世界」の主人公・三上正夫も、大きなタトゥーの持ち主。こちらはシンプルな線画だが、その理由は「(前略)少年院のころ彫師見習いの収容者が入れたもので、筋彫りだけで彩色されて」いないからだと、本作原案となった直木賞作家・佐木隆三のノンフィクション小説「身分帳」(講談社文庫)の補遺にあった。
前科10犯、人生の大半を獄中で過ごした元殺人犯の男が、〝シャバ〟での暮らしに悪戦苦闘する物語。西川美和監督×役所広司のタッグに惹かれ、映画館に足を運んだのは昨年2月。冒頭の出所シーン、雪景色に見入っていたら、看板に「旭川刑務所」とあり、思わず身を乗り出したことを覚えている。
後から知ったのだが、原案小説のモデルとなった男性も、実際に旭川刑務所で刑期を満了していた。驚くことに、成育歴から受刑状況までを記録したリアル「身分帳」を自ら佐木に送ったことから、小説が生まれたという。佐木が亡くなった2015年、西川監督が本を手にしてほれ込み、初めて原作がある長編作品の映画化に挑戦することに。心根は優しいものの、短気な性格からすぐにトラブルを起こしてしまう愛すべき主人公・三上の姿を通して、現代社会の有り様を浮き彫りにした。
苦々しくて、どこか多幸感のある余韻が忘れられず、このコラムで紹介しようと準備を開始。西川監督が本作の5年間にわたる制作過程などを綴ったエッセイ集「スクリーンが待っている」(2021年、小学館)を読み、わずかなシーンに注ぐ労力と情熱に胸を打たれていたら、ちょうど11月、札幌のミニシアター・シアターキノが開館30周年記念の一環で上映するという! しかも西川監督を招いたトークイベント付き!! すぐにチケットを購入し、当日いそいそと会場に向かった私は、新鮮な思いで客席に身を沈めていた。なぜなら、満席の場内からは何度も笑い声が響き、最後にはすすり泣きが漏れたから。あらすじを知る私も涙をこらえきれず、鼻をすすってしまったからだ。映画館で映画にどっぷり浸る喜びを噛みしめていたら、上映後の西川監督トークが熱気にあふれ、これまた楽しかった!
次々と手が挙がる中、私も気になっていた「なぜ改題を『すばらしき世界』に?」を質問された方がいた。西川監督の答えは「ぱっと思いついたから」。そして、「世界が素晴らしいわけがない。それでも、捨てたものじゃない、という両義的な意味からつけてみました」との説明に、フムフムとうなずく私。
映画化に当たり、監督が「知っている方がいたら連絡してほしい」と呼び掛けていた主人公モデルの亡き男性についての後日談も明かされた。「一人だけいました。なんと、まだ旭川刑務所で服役中の方でした」。 何でも、刑務所内で本作の映画鑑賞が行われ、感想文を送ってくれた受刑者の中にいたという。「本当にけんかっ早い男だった、と書かれていました」と話す西川監督は、感慨深げだった。
さて、話は戻るが、近所の銭湯は年内限りで閉業することになった。タトゥーの彼女はどうしているのだろう。この不寛容な世の中で、誰かと笑い合える場所を、しぶとく見つけていてほしい。
文&イラスト 新目七恵(あらため・ななえ) ライター、ZINE「映画と握手」発行人。北海道の刑務所が舞台といえば、異色コメディー「刑務所の中」(2002)。山崎努演じる主人公のほんわかナレーションがたまりません。と思っていたら、崔洋一監督が11月27日、亡くなられました。合掌。
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ちょうど67年前の今頃、夕張炭鉱は興奮に沸いていた。なぜなら、〝ベルさん″の愛称で親しまれる人気女優・山田五十鈴が、自分たちと同じ坑夫姿で映画撮影に励んでいたからだ。読む
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“マイトガイのアキラ”と聞けば、この作品を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。日活黄金期の看板スター・小林旭の代表作であり、一世を風靡した「渡り鳥」シリーズの第1作。読む
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