札幌はキリスト教都だ。その歴史の中で、学問分野でも異彩を放つ研究者を輩出してきた。著者もそれに連なる古代キリスト教史家だ。新約聖書学では常識の「マルコ福音書最古説」に対して、「マタイを最古とするのがもっとも合理的だ」と言い切り、Q語録仮説をも否定する。論旨は明快で、ギリシア語が分からずとも読み進めることができるイカれた文章は、痛快でストンと腑に落ちる。初期キリスト教の実態解明が現代のキリスト教にも資する、という著者の確信に基づいた論考集だ。
著者 戸田聡 出版社 北海道大学出版会 発行 2021年3月25日 価格 7,700円(税込)
幼い頃の貧しくも美しい家族との思い出に始まり、次第にアイヌ民族としての意識が芽生え、言語や民具などを残す重要性を自覚し行動していく茂。知里真志保や金田一京助との出会いと交流、アイヌ民族最初の国会議員として活躍し、民族文化の保存や再興、権利回復のためのあらゆる試行錯誤が赤裸々に語られる。萱野の歩んだ道筋が、いかに現代を生きるアイヌ民族の糧となっていったかもわかる。続編である「イヨマンテの花矢」などを加えた完全版で、この地に住む人皆必読の書である。
著者 萱野茂 出版社 朝日新聞出版 発行 2021年7月7日 価格 1100円(税込)