佐古純一郎をはじめ三浦文学の研究者は数多い。そして現在に至るまで彼女の作品を読み解く作業が、世代や国境すら超え続けられている。その「秘密」はなんだろうか?本書「三浦綾子論」は作家論でなく作品論だ。森下辰衛の巻頭言のとおり「物語を人間に寄り添って読む」ことに徹底した作品論である。作者が人物をどう設定し動かし語らせたかでなく、それぞれの行動や言葉を実在する人物のものとして解釈していく。著者の読み方を通して、三浦文学の秘密の一端に触れられるだろう。
著者 小田島本有 出版社 柏艪舎 発行 2022年4月20日 価格 1980円(税込)
最近、アイヌ・アートがより身近な存在になった。著者はアイヌ民族や先住民族の物質文化を研究する文化人類学者だ。本書は、民族の歴史や地域性、精神文化や日々の暮らしから説き起こし、そこで作られ、今も生まれる続ける多種多様な「作品」たちの「美」について、大型図版を全面カラーで多数収録し、丁寧に解説する絶好の入門書である。実際に作品その「もの」に向き合うよう力説し、そうすることでアイヌ・アートの多様性と未来が見えてくると語る著者の姿勢には、大いに共感できる。
著者 山崎幸治 出版社 東京美術 発行 2022年2月25日 価格 2200円(税込)